ギュスターブ・ドレ版画 『ペロー童話集』挿絵「赤ずきん
(
Le Petit Chaperon rouge
)」3点セット(『Les contes de Perrault. / dessins par Gustave Dor ; prface par P.-J.Stahl 1869年フランス パリ J Hetzel刊より』)
【書誌的事項】
*原本:Les contes de Perrault. / dessins par Gustave Dor ; prface par P.-J.Stahl
*著者: Jean de La Fontaine(1621ー1695年)
*刊行: J Hetzel
印刷:J. Claye
*刊行地:Paris
*刊年:1869年
*挿絵:Gustave Dor
*版画寸法:シートサイズ 26.7x36.2cm / 描画寸法 19.5x24.5cm(寸法は版画によって異なり、一定ではありません。)
【商品について(注意点を含む)】
本商品は、1862年にパリでJ Hetzelによって出版された記念的な書物(Les contes de Perrault. / dessins par Gustave Dor ; prface par P.-J.Stahl)の1869年版からの崩しからまとめられた「赤ずきん(Le Petit Chaperon rouge)」の版画セット3点です(本商品に含まれるのは【写真
2】~【写真4】の3点のみで、【写真1】、【写真10】は参考資料であり、商品には含まれませんのでご注意ください)。
原本となった『ペロー童話集』の初版は、ギュスターブ・ドレの挿絵(hors texte)が当時の書物としては異例ともいえる40点も挿入され、判型も29,9x42,5cmという巨大な書物として刊行されました。販価も高価でシートによる販売が60フランで製本されたもの70フラン(当時の労働者の平均給与?が100フランとされている)と記録されていますが、1860年代?に63(?)、65、67、69年(出品者確認)と再版され高く評価された人気のあった書物と考えられます。、マイナーな変更を加えられながら1883年まで再版されました。その人気はドレのインパクトある版画作品の力が大きく寄与したことは明?らかです。またドレの作品は、その後の『ペロー童話集』の挿絵に現代?まで影響を与え続け、代?表的な何点かはドレの名前を知らない多くに人々の記憶にも残されています。本商品は『ペロー童話集』に含まれる9点の作品にそれぞれ添えられた版画を作品ごとに纏めてセットに組んだものです。同様の商品は現時点でネット上にも存在しますが、そのほとんどが単品(一枚ごと)として販売されており、書物の挿絵として意味(identity)が失われています。出版史的にも重要と思われる刊行物の、書物としての痕跡を残そうとセットでの出品としました。
【原本における問題】
先に1862年の初版から1883年(それ以降にも再版されているようです)までかなりの再版がなされ、その間に「マイナーな変更を加えられた」と記しましたが、実は1860年代?の再版の過程で大きな変更が行われています。1865年版以前と1867年版以後では大きな相違が生じています。
*相違点1は、その判型の変化です。1867年以降の版からかなり縮小しています。下記の比較を本文紙(版画の原形寸法)で比較すると(【写真10】参照)、
◎1862~1865年版:シートサイズ:29,9x42,5cm (版画イメージサイズ23,3x28,1cm)
◎1867以降版:シートサイズ:26,7x36,2cm (版画イメージサイズ19.0x24.0cm)
となっています(ただし理由はわかりませんが1880年版は初版を忠実に再現しており、その判型、装丁、挿絵等ほぼ同一です)。
*相違点2は挿絵の刷りに関することです。
◎1862~1865年版の期間の挿絵は、四角いグレーの背景の上に黒色線描のイメージが刷られています(【写真10】参照)。つまりモノトーンの2色刷りで製作されています。
◎それに対して1867版以降の挿絵は、黒色線描のイメージのみが直接原紙状に刷られています(【写真10】参照)。
「版画イメージサイズ23,3x28,1cm」、「版画イメージサイズ19.0x24.0cm」と差異があるのは、その背景を含めての寸法が反映されているためです。
なぜこのようなことが起こったのかということは、おそらく工程の簡略化のためと思われます。一版省くので大雑把に言えばに刷りの手間が半減するということになります。
そもそもグレーの背景を設定したのはなぜか?といえばドレの作品に対する強い思い入れのためと考えられます。
ドレは当初、挿絵の効果をより高めるために白色のシートに直接黒色のイメージを刷るのではなく、額縁のようにグレーの領域を作りそこに物語の世界をと考え、厚手の簀の目入のオランダ紙(verg de Hollande)を台紙にして背景用の中国紙(と言われるteinte papier de Chine)貼り合わせてその上に黒色線描のイメージを刷って作品を制作したようです。そのような技法はchine colle(シン・コレ:一般に19世紀?以降の凹版の技法として知られており、日本では雁皮刷りと称されています)あるいはChineAppliqueといわれており、ドレはそのような製作品を自身の展覧会に出品したり、すでに刊行されていた作品の挿絵で行っていましたが、1862年版のごく一部もそのような挿絵入りで制作され、頒布(おそらく高価な値段で)されたとという記録があります(注1)。しかし、出品者が確認できる1862年版と1965年版は、そのようなシン・コレではなくどちらもモノトーンの2色刷りです。おそらくそドレのこだわりへの妥協が1862~1865年版の印刷によるグレーの背景刷りということになったと推測できます。現在Eコマース上に初版の1962年版が何点か出品されており、その挿絵が「シン・コレで制作された」と記述されていますが、台紙がverg de Hollandeではないのでそのほとんどが2色刷りの挿絵と考えられます。
*相違点3、再版に伴って変化している点がもう一つあって、それは添えられている挿絵のがわっているという点です。1862年版と1865年版の比較で明?らかに挿絵が消え、異なった挿絵が加えられている事がわかります。ただその理由が何なのわかはわかりません。
(注1)*『CATALOGUE DE
L'OEUVRE COMPLET DE GUSTAVE
DORE』HBNRI
LEBLANC
1931
PARIS
p276
*『Gustave Dor et la gravure sur bois de teinte-Gustave Dor and Tinted Wood Engraving』Valrie Sueur-Hermel, https://journals.openedition.org/estampe/4530
*『Gustave Dor et les Contes de Perrault : du dessin au livre illustr』, https://journals.openedition.org/estampe/3414
【ドレの小口木版の製版について】
挿絵の版画は小口木版(wood engraving)という技法で作られた版で刷られていますが、『ペロー童話集』の版は通常の方法とは異なった【gravure de teinte】(注2)という技法で彫版されています。一般に木口木版の版下(彫版のための元?絵)は線描を基本として描かれ、それを版木に転写して彫刻しますが、ドレの元?絵は線描では無くインクと筆で緻密な濃淡のあるデッサンのようなイメージを版木に直接描きます。彫版家はそれを基づいて画家の中にある挿絵としてのイメージを、点や線の集合として具現化するという技術を超えた困難な仕事を行うことになります。このような【解釈版画】(19世紀?の凹版の世界で使われた概念ですが)という方法が木口木版で試みられ大きな成功を収めたのが、『ペロー童話集』を含むドレの作品の成功の原因のではないでしょうか。また、それを実現するために制版には当時の著名な彫版者が多数参加しています。Pannemaker、frres Hliodore et Anthelme Pisan、Facnion、Louis-Henri Brevire、Louis Dumont、Emile Deschamps、Delduc、Charles Maurand、Franois Perdon、Perichon、Boetzel、Heberなどです。
そうして仕上げられた版は、実際にはそのまま印刷に使われるのではなくガルヴァノグラフィー(注3)という技術によって、正確に銅版で複製されそれが刷版として使われました。詳しくは(注4)を参照してください。
(注2)【gravure de teinte】のteinteの意味がわかりにくいと思います。詳しくし知りたい方は『Gustave Dor et les Contes de Perrault : du dessin au livre illustr』Ghislaine Chagrot et Pierre-Emmanuel Moog, https://journals.openedition.org/estampe/3414のパラグラフ9、あるいは『Gustave Dor et la gravure』https://essentiels.bnf.fr/fr/video/0efbdd22-301a-406e-b6f1-f20b74561cac-gustave-dore-et-gravureなどを御参照ください。
(注3)電気メッキ法を利用した刷版の複製法です。1800年代?の初頭から半ばにかけて多数の発明?がなされ非導電性の木版などからの金属版複製が可能になりました。ガルヴァノグラフィーの名称は、その原理のもととなる電気化学の祖の18世紀?イタリアの学者ガルヴァーニに因んだものです。
(注4)*Gustave Dor et les Contes de Perrault : du dessin au livre illustr』Ghislaine Chagrot et Pierre-Emmanuel Moog, https://journals.openedition.org/estampe/3414に実物が紹介されています。
【本セットの挿絵について】
本セットは 『ペロー童話集』中の「赤ずきん(
Le Petit Chaperon rouge
)」の挿絵3点(テキストは2頁分)です。テキストの量に対するる比率としては9話のなかで最大です。しかも【写真2】【写真3】は物語とは直接関係ないP.-J.Stahlによる序文に、そして【写真3】は物語のテキストの2ページ前に置かれるという不思議な構成です。またドレの挿絵の中でももっとも印象深く、よく知られている作品でしょう。
3点の作品の状態はややフォクシング(茶褐色の斑点状の薄い染み)や汚れがありますが(【写真5】【写真6】【写真7】)
、その大半がマージンの部分で、版画のイメージの部分には少なくまたほとんど目立ちません。額装の際に窓マットを設定して、可視部分をイメージの重点にすれば鑑賞上は問題ないと思います。
【注意事項】
*150年を経過し、それなりに読まれてきた書物の挿絵なので経年の損傷があります。また上記の画像・記述により明?示できていない瑕疵がある可能性もございます。【商品説明?】をお読み頂き、その点を了承のうえ入札をお願いいたします。つきましては恐縮ですが、汚れや傷などの神経質な方は御入札をお控えください。
*悪い評価が極端に多い方及び、新規の方等につきましては当方の判断にて予告無く入札を取り消しさせて頂く場合がございます。
以上を御理解の上、御入札ください。
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